12個目。
露様好きだよ露様。
露様の哀情は複雑怪奇。
* * *
ベラルーシからの手紙が途切れた。
姉と相談した結果、姉が行ってくれる事に相成った。
勿論こちらの思い通り計算通りに事が進んだ結果、手紙が途切れたのならば少しも構わない。
が、どうやらまだそこまでは至っていないようだ、と兄姉で意見の一致を見た。
だから、姉が行く事になった。
自分はひたすら手持ち無沙汰かと言うとそうではなく、一番面倒な男の話を聞くハメになっているのだけれど。
これなら退屈の方がましだった。
退屈は死に至る病、しかし憎悪は苦しみながら死に至る病だと思う。
真綿で首を絞めるか、有刺鉄線で首を絞めるかの違い。
受話器を床においていても響き渡る男の大声が見苦しかった。
「ベラルーシが口利いてくれないんだよ! 聞いてるのかいロシア!」
「聞いてるけどさ。別に今に始った事じゃないんじゃない?」
「前以上に利いてくれないんだよ! 初対面の時以上にだぞ! しかも怒ってるんならまだしも――」
怖がってるみたいだ、と男の声は言う。
こいつ人の妹に何をしたのだろう。
ベラルーシが何かを恐れる事が、どんなに恐ろしい事なのかこの男は多分わかっていない。
少しは怖がってくれたらなあ……いやもうほんとに。
暗黒面に精神が堕ちそうだった。
「ねえアメリカ君、君さ、ベラルーシに何したの?」
「――怒るから言わないぞ!」
「怒るような事したんだね……?」
コルコルコルコルコルコル。
ごめんよ悪かったよ怒らないでくれよ!
男の謝罪は珍しく素直だ。
大体この男は自分の事が嫌いなはずなのである。
嫌いな相手であっても、適任であれば平気で相談したり頼ったりするそういう姿は、鬱陶しい。
得な性分だとは思うけれど、もしかしたらいい事なのかもしれないけれど、それだけだった。
自分はこの男の事が気持ち悪くもあるし鬱陶しいとも感じる、でも嫌いではない。
その辺りの感性の違いが、自分とこの男の決定的な違いとも感じた。
「でも何をしたのか言ってくれなきゃ何も言いようがないよ」
握ったペンを、意味もなく回した。
何をしたのか聞き出せれば、すぐにウクライナに伝える準備は万全である。
あの姉の事だ、別に何も聞かずとも上手くやるだろうが、予備知識は多い方がいいだろう。
「うーん……怒らないかい?」
「僕、君に怒った事なんてあったっけ?」
「ロシアは表に見せないだけじゃないか! 影で凄く怒ってたりするぞ!」
大体君、本当は皆の事が大好きなんだから、もっと感情出した方がいいぞ、何でそんな黒幕ぶるんだい?
君は女性じゃないんだから、秘密を着飾っても薄気味悪いだけだぞ!
見透かしたような事を男は言う。
まあ、見透かされているのだけれど。
だから不愉快なのだ。
でも。
だけど。
多分誰も気づかない、大体誰も信じない、そんな事。
本当は自分が皆を愛してるって事を当然のように理解して、指摘してくるのはこの男ぐらいの物で。
だからと言って不愉快には変わりはないのだけれど――
「うん? ロシア、どうして笑ってるんだい? 俺の状況は笑い事じゃないぞ!」
「いや――まあ、話、聞かせてよアメリカ君」
だからこの男は太陽みたいなのだ、と思う。
そして自分は太陽がすきなのだ、と。
まあ、アメリカ君の事は、大嫌いだけど、ね。
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