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メッツェンメチル

ヘタリア・京極堂シリーズ等の無節操な二次創作と、オリジナル。傾向等は最古記事をご覧下さい。
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2024/11/26(Tue)14:40

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リト→ベラ→露(↓と微妙に関係あり)

2009/01/12(Mon)19:26

その時彼女は美しく澄み渡る泉の深淵を覗き込んでいた。

深淵に臨んで薄氷を踏むが如し、という言葉があるらしい。
それを教えてくれたのは驚くべきことにポーランドで、ポーランドはイタリアから聞いたらしく、という事は多分イタリアは日本から聞いた表現なのだろう。
その詩的な響きのするイメージから行くと、元々は中国の言葉なのかもしれない。

深淵に臨んで薄氷を踏むが如し。
それはつまり、深淵を覗き込むときのように、薄氷の上を歩くときのように、こわごわと慎重に行動する、という意味なのだそうだ。
しかし実際にその深淵を覗き込んでいる彼女には、慎重さの欠片もなかった。

身を乗り出して、入水するみたい。
しかしそんな事を実際にする訳もないと、その一枚の絵画を眺め続ける。


と。
彼女が身を乗り出した。

「ベラルーシちゃん!」

慌ててかけよると、自分が駆けつけ終わる前に、彼女はあっさりと水から顔を上げた。

「…………」
「…………」
「…………」
「えっと……大丈夫?」

にらみつけられている。
可愛い顔だった。

「何、してたの?」
「兄さんが」
「ロシアさんが?」

何かとってこいとでもいわれたのだろうか。
なら手伝おう、と思ったところで。

「兄さんが、笑いあいたいって言うから」
笑おうとしてた、とそれは無口な彼女にしては珍しく、長い台詞だった。

本当に好きなんだな。
ロシアさんの事。

「笑えた?」

それには返事をせずに、彼女は再び泉を覗き込む。
鏡の代わりなのだろう泉。
近づこうとすると、睨まれる。

「……駄目かな?」
「水がゆれる」

鏡がなくなる、と言う意味なのだろう。
まあ僕自体を嫌がってるんじゃなくてよかった――そう思った。

そのままの位置で、動かないように、彼女の努力を見つめる。
指で頬を吊り上げ、必死に、ひたすらに必死に、微笑もうとする、彼女。
止めたくて、止めたくて、そのままでいいって言いたくて。
でも、きっと、彼が望んだ事ならば、彼女は僕のいう事など聞きはしないのだろう。

その時。
風も無いのに。
水がゆれて。
鏡は壊れ。
彼女の顔が――
波紋に歪む。

同心円状の波紋の中心に、一粒の水滴。
また一つ。
また二つ。
彼女の目からこぼれ落ちる。

「ベラルーシちゃ……っ」
「来ないで」

はっきりとした――今度は明確に僕自身を拒絶した――声だった。

「慰めなんていらない。愛情なんていらない。貴方がくれる何も欲しくない」

わかってたよ。
泣いてる間だけでも慰められてしまうほど、か弱い女の子じゃない事ぐらい。
普段はどうだか知らないけど。
あの兄を思う時、彼女は酷く真直ぐだ。
真直ぐで、依存してて、愚直なまでに。

それでも愛しかった。
それでも可愛かった。
それでも――愛した。

だから君が少しも嫌がっていない事ぐらい承知の上で、ロシアさんに食いかかってしまう。
君の服の傷や。
君の頬の痣や。
君の首の跡や。

だって全部見えるから。
君は彼からもらった全てを、誇らしげに見せ付けるから。

「ベラルーシ」
「そう。私はベラルーシ」

貴方はロシアじゃないから興味はないの。
彼女の言葉は逐一、彼女の持つナイフよりも営利な刃物だった。

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