三つ目。
こ、この露さまは黒くなんかないよ!
* * *
「アメリカ君とこ行ってくれる?」
ベラルーシは顔が歪むのは抑え切れなかったようだった。
「アメリカ君が、君を預かりたいってさ」
「……私は預かられたくない」
「僕は預けた――うん落ち着こうベラルーシ、とりあえずその武器をとりあえずでいいから直そうよ僕達の間にそんな物は必要ないはずだよねえベラルーシ!」
「あの似非英雄メタボ野郎に汚される前に一つになろうかと思って……」
「君のその不屈の精神があればアメリカ君の家でも大丈夫だよ……うんだから問題だったりもするんだけどね」
「何か言った、兄さん」
「ううん!」
いやあ、この娘とよく今まで一緒に住んでこられたなあ、自分。
思わず自画自賛したくなった。
というか労わりたくなった。
「まあ、アメリカ君も妙な事はしないと思うよ」
「いいえ、騙されてはいけないわ、兄さん。あの金髪変態野郎は私に、――」
「……何かしたの?」
「何でもないです」
何かされたのだろうか。
ベラルーシは昔から、なんだかんだと言って懐いてくる割に、余り自分の事を話さない。
それがどういう心情の表れなのか、さっぱりわからなかった。
「……やめとく? ベラルーシ」
「いいえ。兄さん。嫌がってはいますけど、それはあの駄目眼鏡男への不快感を表したいだけで、別に兄さんの言う事に異議がある訳ではないの」
「嫌ならいいよ?」
「狡い兄さん」
断る訳もない、とベラルーシは僅か微笑んだようである。
「それで、行って私は何をすればいいの? あの我侭傲慢厚顔無恥野郎の寝首を掻けばいいの? それとも重要情報でも取り出してくればいいの?」
「アメリカ君も君を呼ぶくらいだからそのぐらいの対策はしてると思うよ。別に楽しんでくればいい――でも、そうだね」
「何?」
「どうせなら、惚れさせてみたらどう?」
「は」
ベラルーシの顔が引きつった。
「兄さん、」
「どうせなら、って話だよ。ベラルーシは覚えてる? オーストリア君のさ、ハプスブルグ家」
「……兄さんの作戦をさんざ邪魔した事ぐらいしか」
「うん、まあそれは真面目にコルコル言いたくなるけどそれとしてさ、彼の所は国の征服に武力を用いなかった」
曰く――オーストリアよ、汝は幸福な結婚をせよ。
他の列強が血と肉で必至に手に入れようとした世界を、平和的に、効率よく手に入れた一大王家。
ヴィーナスの加護を受ける、と冗談にも詠われた。
顔を思い浮かべようとしたらクリミアとか二回に渡る大戦とかのあれこれが浮んできたりしたので止める。
「僕や君が思ってるより、愛の力は偉大って事かな」
「……私は別に愛を軽んじてはないです。例えば兄さん、」
「うんまあその話は後にしようよ今するべきじゃない話題な感がすごくするよ!」
しばらく考え込むように、俯くベラルーシ。
「確かに、一番兄さんの役に立てるのはその方法ですね」
「はは。アメリカ君は若いし、ベラルーシは可愛いから、もしかしたらもしかするかもよ?」
勿論本気にとらなくていいけどさ、と笑ってみせる。
実際のところ、あの不愉快なヒーロー気取りが自分の妹に惚れるとも思えなかったけれど。
それはそれとして――だ。
別に本気で狙っている訳じゃない。
ただ、目的は確かにあったのだけれど――それは妹には、内緒の話だった。
PR