「本当、君にはうんざりだよアメリカ。もういい加減にしてくれないか」
いつもどおり心の中で呟いた言葉のはずだった。
しかし相手の男の、自分と瓜二つの顔が引きつるのを見て――ああ言ってしまったのか、と納得する。
「カナ、」
「ごめんよアメリカ。つい言っちゃったんだ。悪気はなかったんだよ」
弁解するような言葉、しかしその前の言葉を覆す事はしない。
嘘は嫌いなのだ、それだけの話だ。
だってもう、本当、嫌なのだから。
押しも押されぬ大国、我侭を言い放題できる力を持った子供。
同い年ではあるけれど――自分の歩んできた道とは余りに違う。
別に嫉妬という訳ではないのだけれど、ただ、言っておくのも悪くないと思ったのだ。
口を滑らせたついでに、誰もが大事にし、遠ざけ、何も言えない子供に苦言を呈するのも。
「君は何様のつもりなの? そうやって偉そうに胸張って、自分が世界の王にでもなったつもりなの?」
「カナダ」
「そうだね、皆君を大事にするね。だって君の力は強大だもの。でもさ、それって君の力を怖がってるんであって、大切にしてるんであって、君自身を大切にしてる訳じゃないって気づいてる?」
「カナダ」
「気づいてると思うんだ。だってアメリカ、頭いいもんね。うらやましいよ。気づいてて尚そうやってやれるその神経がさ」
「カナダ……っ!」
「うん、でも、嫌いじゃないんだよ?」
うんざりしてるけど。
正直勘弁して欲しいけど。
いつも傍によらないで欲しいけど。
性格なんて最悪最低だと思ってるけど。
なるべく自分とは違う所で生きて死んでほしいけど。
でも、嫌いじゃないよ。
だってこの大きな大陸で、僕らは同じように生まれたんだから。
一年目でやってきた人間の半数が死んだと言われるこの冷たい世界で。
きっと同じ立場だったら、君じゃなくても好きになった。
でも、結局、僕は君が好きだ。
「ごめんね。大人気ない事言ってさ」
「……っ同じ年だろ……っ!」
泣きそうな顔で、そこだけはそう返すアメリカ。
その大嫌いな顔に、キスを、した。
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